バックナンバー>>2010年06月04日

今回のテーマは
『バースデー・プレゼント』です。

==フィクションです==


私は図書館の管理人をしている。

とは言っても受付やカウンターの係はアルバイトがいて私はいるだけで何もしていない。
まぁしいて言えば
・図書館に訪れる人のあら探し
・裏口の軒下に巣を作ったツバメ一家の成長ぶり
・テーブル番号B-34が壊れていないかの目視チェック(太った人が座った後は要チェック)
・新しい本が入館した時に新しい本の匂いを嗅ぐ。
といった感じである。
ホント何もしていないように見えるかもしれないがこれだけで結構忙しい。
なぜならたまにあらだらけのようなひとも訪れるし(私が一番あらだらけという噂もある)、ツバメの巣は崩れ落ちそうになっていたらガムテープなどで修復したり(幾度か粘着部分が手にくっついてしまい余計破壊したりした)、
B-34は出来るだけ誰も座りたくないように汚したり(そんな暇あったら直せという噂がある)、新しい本もけっこう頻繁に入ってきていい匂いを探すのも大変である(ただの変な癖だ)。

こんな私の空白に近い時間でも皆と平等に時間は流れる。もちろんこんな空っぽな仕事に高額な報酬など望むべくもなく、私は中年であるが当然独身である。

しかし私はこのほとんど真っ白に近い時間を、心地よく感じていて変えようとも思えなかった。実際変える能力も無いのが本音である。

そうそう、私が管理している(といっても何もしていないが)この図書館にはパソコンがない。幾度となく営業マンが来たり役所の人間もパソコン導入を勧めに来たりしだが私は導入を拒んできた。パソコンて言うのはなんか現実的でならない。本はなんていうか非現実的な世界に入りこむものだと思うから、出来るだけ現実とは離しておきたいのである。私は勝手な理論だが本の表紙と裏表紙が分厚いのはある意味"現実との境界壁"だと思っている。せっかくの境界壁を便利性を追及したパソコンに破壊されたくないのだ。
パソコンをたくさん導入しまくっている図書館(私はハイテク図書館と呼んでいる)に利用者をとられてしまい、我が(ローテク)図書館の利用者数は年々減ってくる。我が図書館は幸い公的機関が運営しているので利用者数が極端に減らない限り、仮に極端に減ったとしても『税金の無駄遣い』呼ばわりされない限りは到底つぶれたりはしないので平和なもんだがアルバイトの一人がある年のゴールデンウィーク前にこう言った。
「入口の掲示板や受付まわりが何もなく淋しいので"図書館だより"みたいなものを書いてみたらどうですか?」

正直私はあまりモノを置くのが好きではなかった。とくにそういった広告やチラシというか文書はやはり現実的である。そうアルバイトに告げると、

「では非現実的なメッセージで書いてみたらどうですか?」

そう言われた。GW前だし(いつも暇だが)、今回だけは仕方ないから作ってみるか。

っでかれこれ1週間後にアルバイトが「このスペースを埋めるくらいの文章を作ってください」
といってA4の印刷物を持ってきた。

私はものの3行ほどのスペースを見て、「たったこれだけのスペースでいいの?」と私は驚きのあまり聞いてしまった。
「はい。そうです。これから本を読む人はあまり長い文章を読みたがらないでしょうし、これくらいの文章で引きつけられたら素晴らしいと思いました」

はっきり言ってアルバイトの希望というか願望だらけである。まぁしょうがない。このA4下書きを見ると結構苦労した形跡がある。『新庫案内』、『夏までに読みたい夏特集文庫』、『館内案内』と、とても丁寧に作られていた。


「さて、やるか」

と思い立ったはいいが、全然何も浮かばない。それもそのはずだ。作文なんて小学校6年生の時の夏休みの宿題で書いた読書感想文以来である。50年も作文に縁が無かったので何をどうしたらよいかさっぱりわからない。

「まいったな。アルバイトに頼んじゃおうかな、、いやいや、これは自分で書きたいな」

さまざまな思いが巡り、アルバイトの苛立ちも日に日に募るばかり。ツバメもB-34も新本の匂いも全部そっちのけで没頭した。作文に関する本や名作などにも目を通し、生まれて初めてとも思われる寝不足にもなったりした。

いままでの"真っ白な時間"に少しだけ色が付いた気がした...中年にして初めて。

ついにGW前日、開館前10分に私は出勤し、あきらめの表情を前面に出しているアルバイトに私の文を追記したA4用紙を返却した。もう一週間以上髭も剃っていない私を見てアルバイトはあきらめの表情をそのままに「はいはい、ありがとうございます」といった感じで、面倒くさそうに受け取る。その10分後、開館時刻には図書館の入口と受付に"図書館便り"は綺麗な花びらのように華やかな色合いで置かれていた。私のコメント部分は特に華やかに彩られていた。

...私は私が書いた下記コメントを、他人事のように見つめた。


〜管理人より〜
本を読んでいるとたまにとてつもなく面白い本に出会い、ページをめくるのももどかしく気がついたら朝になっていたような経験がないだろうか?その時、時間はダイヤモンドに変わる。どうせ同じ時間なら、七色に輝くダイヤモンドのような時間が多い方が良いのではないだろうか?
〜〜〜〜〜〜〜



後にアルバイトから聞いたのだが、偶然にもこの図書館便りが作られた日は図書館のオープン記念日で34周年記念であった。全く無意識だが、今までお世話になりっぱなしだった図書館に、管理人からのささやかなバースデイプレゼント、になったかな?

以上、『アルコール至上主義』〜適量ってなんだろう〜管理人でした

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